Pathologic Classic HD感想(ネタバレあり)

先日、パソロジック・クラシックHDの全ルートをクリアした。
総プレイ時間はだいたい90時間。常々自分のことをこらえ性がない人間だと思っているので、クリアは無理かなあ……とごみ箱を漁りながら考えていた。
しかし、私はやりきった。シナリオとキャラクターが好みであれば、背景が変わらず(ゲーム全体のシュールな美的感覚はとても好きだと言っておく)とも、
ダッシュができなくとも(これはいくらなんでもひどい)完走できるのだ。

シナリオの概要
どこかの国のどこかに流れる「ゴルホン川」に沿って立てられた小さな町に、「サンド・ペスト」と呼ばれる疫病が、突如として流行り始めた。
数年前にもおなじ病がここで蔓延したらしいが、いったいどういう繋がりがあるのか!?そして肝心の治療法とは!?という感じ。
ジャンルはサイコロジカル・ホラーと言われてるが、会話が多いし、謎解きゲームに近いと思う。
しかし、プレイ時間の大半は、住民とのおしゃべりよりも、町の散歩に割かれていた気がする。
不気味ではあるが怖くはない。ジャンプスケアもなし。

プレイアブルキャラクターの紹介
ゲームには、バチェラー、ハルスペクス、チェンジリングが存在し、それぞれに3つのルートが用意されている。

バチェラー
彼は医師の学位をもつ死生学者であり、首都(どこの?と聞かれても、私にも分からない。一応ロシア産のゲームなんだけど)にて
「タナティカ」という研究所を運営している。不死を求める彼の研究は、かねてより国の権力者から弾圧されていた。
いつ研究所が閉鎖されてもおかしくない、と頭を悩ませていたバチェラーだが、かつての同僚から手紙が届く。
そこには、彼の理論を証明できる人物が、とある町にいる、と書かれていた。

この人はかなりの合理主義者であり、けっこうな個性の持ち主。オカルトチックな町の慣習を、「時代遅れ」と形容したりするけど、
ヒポクラテスの誓いを忘れてるわけじゃない。人を助けようとする気概は人一倍ある。

バチェラーの個人的な所感
プレイヤーのさじ加減にもよるが、高飛車なやつだなあと感じた。いうなれば……お嬢様(エリート由来)系のツンツンツン……デレッ!でしょうか。
一日目、いろいろと教えてくれるエヴァを「アドバイスは必要ない」と一刀両断したかと思いきや(私にこの選択肢を選ぶ勇気はありませんでした)、
審問官に捕まらないか心配なチェンジリングに「君が本当に疫病を広めているなら、(捕まった場合は)研究対象として連れ出せるか聞いてこよう」と言い放つ。くおーっ。
こういう高貴な人間になりてえなあと思った。あとやっぱりラテン語とか聖書の引用はさあ、間違いなしにかっこいいっすよね。

ハルスペクス
彼はゴルホン川沿いの町で生まれ育った、地元の人間だ。
生物を切り開く権利をもつ、「メンフ」と呼ばれる地位にいる(言ってしまえば外科医)。その師でもある父親に、メンフの知識だけでなく、
最新の医学も学ぶべきだと言われ、大学に送られていた。
それから10年が経った彼のもとに、父親から帰郷をうながす手紙が届く……が、すでに父は亡くなっていた!

ものすごく主人公っぽい出自のキャラ。メンフは敬われると同時に蔑まれる職業でもあるので、
(根も葉もない父親殺しの噂も影響して)切り裂き魔のあだ名がつけられるが、心根はとても温かい人間である。
彼のアイデンティティは、伝統と革新のはざまで不安定に揺れている。あと人の死体から臓器がとれる唯一のキャラ。

ハルスペクスの個人的な所感
この作品にはアクの強いキャラクターが多数登場します。あっちで嫌われているけど、そっちではやたらと好かれているなんていうキャラがほとんどですが、
ハルスペクスを嫌っているファンはまったくといっていいほど見かけません。
普段はけっこうドライだけど、たまにお茶目なこと言っちゃったりする性格だからでしょうか。のちのシリーズでいわゆるハンサムな顔になったからでしょうか。
しかし、いちおう人殺しは確実にしています。そこに弁解の余地はない。

チェンジリング
夜明け前、彼女は墓穴で目を覚ました。
自分が何者なのかは分からないが、奇跡を起こせることは分かっているらしい。そこに居合わせた町の有力者は、彼女を善き魂とし、引き取る。
彼女は聖人とも、ただのこそ泥、あるいは疫病の化身とも呼ばれるようになるけど、
途中で正体不明の双子の姉妹も登場しちゃうし……どうなっちゃうの!?

子どもらしい一面があるけども……すごい難しいキャラクター。周囲にまともな状態の人間がいないので、聖女だなんだとおだてられて、
もてあそばれていた感じが気に入らなかった。奇跡を起こせるのは本当だ。
とりあえず、メタっぽいです(こう言っておけばいいや)。
あと、彼女のルートは、バチェラーかハルスペクスのどちらかをクリアしないと遊べないようになっている。

チェンジリングの個人的な所感
起きた(生まれた)直後、みしらぬ母親と父親から褒められようと奮闘する、なんとも健気な子どもであります。
彼女の不憫なエピソードをあげると、カペーラの「非感染者が隔離されたカテドラルに、ペストが入り込む」という予知夢を聞いて、
なんとか阻止しようとするも、結局は自分が侵入してしまったことで夢が現実になっちゃうクエストがある。
しかもこれ、メインクエストなので回避のしようがありません。ものすごくやるせない気持ちになりました。

感想
前提として、バチェラーが精神、ハルスペクスが身体、そしてチェンジリングは魂を擬人化した存在である(と言われている)。
彼らがたどり着くエンディングは決して完璧なものではない。
バチェラーは不死という奇跡、理想を追い求めるばかりに町を破壊してしまい、
ハルスペクスはポリヘドロンよりもいま現在の町を優先し、
チェンジリングは人身御供により町とポリヘドロンを救う。いずれにしても、彼らはなんらかの犠牲をともなった選択をしている。
では、ヒーラーたちが和解して協力すれば、その犠牲は出さずに済むのではないか、と思わなくもないが、土台無理な話だ。
12日目、自機以外のヒーラーが関係するバウンドを全員治療することで、カテドラルに他のヒーラーたちを会議に呼び出せるが、
それぞれ譲歩することはない。プレイヤーは(多くても)上記三つの選択肢を与えられ、
決断を下すのみである。加えて、町の地区全体が、牛の部位になぞらえて名付けられている点にも触れておこう。
町を支える屠殺業がその由来かと思われるが、これは町全体を生物として見なしていることを示す。
つまり、この作品は、精神、身体、魂といった、人間(生物)に不可欠な3つの原理は、
それぞれ独立して存在することが不可能でありながら(補完関係にある)、鼎立するのみであることを描いているのではないか。

しかし、作品に込められた崇高なメッセージは置いといて、全てのルートが納得のいく出来であったかは微妙だ。
とくにチェンジリング!バチェラーとハルスペクスの確執を描くクエストと、自分の片割れを探しにいくクエストが何度も何度もくり返されるのには、
かなり閉口した。しかも、そのクエスト内のキャラクターとのダイアローグでさえ全く一緒なのは、さすがに瑕疵といえるだろう。
あと、彼女のルートでは、一度他のルートをクリアしたことを前提に作られているのか、メタ的な要素が強めに表現されている。
その最たる例は、権力者たち、すなわち砂場でこのゲームを遊んでいる子どもたちに、他のヒーラーよりもいち早く会えてしまうところ。
そのほか、12日目でのとある会話にて、開発陣は「チェンジリングのルートは未開発である」という旨の発言をしている。第四の壁を破る表現は、
オリジナルが発売された当時ならもてはやされていたのかもしれないが、何度も何度もやられたら……。
不出来であることにわざわざ直接言及し、それをメタ表現として回収することで、お茶を濁しているのでは?と勘ぐってしまう。
まあ、これは今プレイしてる人間だから言える感想なので、あまり気にしないでほしい。

総評
不満点もあるが、とても楽しめる作品だった。人を選ぶのは間違いないだろう。
ただ、このクラシックよりも、私は『Pathologic 2』をおすすめしたい。これはハルスペクスルートのリブート作品だが、グラフィックとストーリーともにきれいな仕上がりになっているので、
こちらのほうが今から遊ぶには適している。それでも、ストアページを見たうえで、クラシックをやりたいと考えているのであれば、
ぜひプレイしてください。始めにも言ったとおり、独特の美しさがあるので。
『Pathologic 3』は……分からない。躁鬱状態で苦しむバチェラーが見たいと思うならやろう。
あと、IPLは即座にチェンジリングのリブートに取り掛かるべきだ。

だが、なんといっても驚いたのは、いちばんやさしいバチェラー・ルート一日目の実績解除率の低さ。
なんと、驚異の17.4パーセント。Steamでこのゲームを購入した10人のうち、2人弱しか手をつけていない。
もしくは一日目を終わらせられずに積んだままの人間が8人ですか。悲しいかな……まあいいけどさ。